読了「デジタル・トランスフォーメーションにまつわる5つの誤解」

Diamond Harvard Business Review 2019年12月号の記事。

バズワードのようにデジタル・トランスフォーメーション(DX)という言葉が先行しているが、何をやったらいいのか、ということには大規模な例ばかりの事例の中で、この特集は、企業の身の丈にあうようなことを進めるうえでの良著だった。

DXは概念的な側面が強いため、これといった絶対的な解はない。ゆえに何をやったらよいのかわからず、とりあえず新しいシステム導入などに走りやすいので、DXの言葉に踊らされずに、まずは自分たちの足元を見直すという意味でも、このDXの誤解について語られた論文はよい。何かディスラプティブなことをやらなきゃならないんじゃないか、という呪縛から解き放ってくれる。DXの言葉に踊らされることなく、本業の課題を考えて、できること、やるべきことを決めてやっていくことが大切だ。

いくつか気になった部分を抜粋。

DXの本質は、組織に大混乱をもたらす破壊的(ディスラプティブ)なものではないという。実際は、より段階的なアプローチを使用することで成功している企業が多いからである。

広くもてはやされている「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)という用語の意味は単に、「デジタルテクノロジーが実現する機会を獲得するための、組織的な戦略と体制を導入するということ」である。

もはやデジタルテクノロジーはIT分野だけの専売特許ではなく、企業のバリューチェーンのほぼすべての部分で導入が進んでいるのだ。マネジャーたちが追い求めるべき機会や優先すべき変革プロジェクトについて頭をめぐらすと、途端にデジタル・トランスフォーメーションが自社にとって具体的に何を指すのか、よくわからなくなる。それも無理はないことなのだ。

デジタル・トランスフォーメーションといえども、自社の存在理由は変わらないとわかれば、自社がフォーカスを当てるべきテクノロジーを特定しやすくなる。デジタルがもたらす混乱によってコアビジネスの大変革を迫られると思い込んでいるマネジャーは、あらゆる方向に迷走することになる。しかし、自社の課題は単純に、顧客の課題により的確に対応することだと考えるマネジャーは、顧客に与える効果(たとえば顧客体験や顧客関係のシナジー効果)や顧客のコアケイパビリティに与える効果(たとえばコスト面のシナジー効果)が最も大きいテクノロジーに集中する可能性が高い。

デジタル化がしばしば、非効率な仲介者を外し、コストのかかる物理的インフラを排除できることは間違いない。とはいえ、これはリアルな存在が完全に消えてなくなるということではない。実際には、各種資料で十分に証明されているように、多くの小売業者が、リアルとデジタルのそれぞれの利点を活かした、ハイブリッドモデルの構築方式を見出しつつある。そしてこのことは小売業に留まらず、消費者を相手とする他の業界でも同じ流れを確認することができる。

企業はしばしば、スタートアップを買収し、それを統合することによって新たなテクノロジーやアイデアを利用しようとする。しかし、このアプローチには、スタートアップの文化を潰し、その企業が創生期に獲得した人材を追い出してしまうリスクがある。賢明な企業は、スタートアップとの間で折衷的な関係を築くことを選ぶ。つまり、学びやシナジー効果が得られる程度に強固で、文化を壊さない程度に緩い関係だ。そして、たとえそのスタートアップの所有権を握るとしても、彼らに半独立的な事業運営を認めるのである。

マネジャーはしばしば、デジタル・トランスフォーメーションとは、主にテクノロジーの変化に関係するものだと考える。もちろんそれもそうだが、賢明な企業は、変革とは最終的には顧客のニーズによりよく答えることであると考える。その手段としてオペレーションの効率化、マス・カスタマイゼーション、新たな商品・サービスの提供が必要だということだ。このような目的を実現するため、デジタル化は、従来縦割り化されていた活動の横の連携を可能にする。そのため、企業は多くの場合、人員とテクノロジーの両方の再編成を迫られる。実際問題として、これは体制の変化を意味する場合がある。たとえば、敏捷性の高い体制(アジャイル体制)が有効な状況ならば、プロジェクトを最初から最後まで遂行するのに必要な能力と権限を持つ分隊を社内で立ち上げる。分隊はチームの一種ではあるが、起業家的なスタイルで重要な問題を迅速に解決する権限を与えられているという点で、一般的な大企業のチームとは異なる。

デジタル・トランスフォーメーションでは、最終的に、顧客には見えないバックエンドのレガシーシステム刷新が必要になる場合がある。しかし、いきなりITシステムの全面的かつ徹底的な見直しに着手するのは、非常に危険である。賢明な企業は、顧客に見えるフロントエンドのアプリケーションを速やかに開発しつつ、レガシーシステムをモジュラー型の敏捷なシステムに徐々に置き換えていく方法を見つけ出す。これはたとえば、フロントエンドとバックエンドを結ぶミドルウェアインターフェースを構築したり、事業部門に目下必要なソリューションの導入を認めたりする一方で、バックエンドのシステム改革を抜け目なく進めるといった方法で実現できる。いずれレガシーシステムの機器は役目を終えるが、顧客ニーズへの対処方法を改善するにあたり、それを持っている必要はない。

たとえ混乱の脅威をまともに受けている企業であっても、デジタル・トランスフォーメーションは多くの企業にとって、通常は提供価値やビジネスモデルの抜本的な再構築を意味するものではない。むしろ、デジタルツールを使ってコア業務を改革することと、デジタルがもたらす新たな機会を見つけてとらえることの両方を意味する。

成功の秘訣は、顧客ニーズに対するフォーカス、組織の柔軟性、斬新的な変化の尊重、そして新しいスキルやテクノロジーは買収するだけでなく保護しなくてはならないという認識である。そしてこれらは、優秀な従来型企業が昔から得意としてきたことなのだ。

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