読了:シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略

「シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略」は、とても面白かった。そして、企業のSNS運用を考えるうえでの示唆が多く含まれていた。SNS運用というと、どうしても個性的な中の人や経営者の瞬発力のある発言が目立ってしまう。そのような方向性ではなく、日々、何を行なっているのか、何を気をつけているのか、それが現場のレベルとして、いろいろと書かれていた。本の中心にあるのは、美術館としてのSNSでのマーケティング戦略であるし、そこも面白い。特に森美術館は、写真撮影OK、SNS OKという、今はまだ珍しいスタイルで、そこにまつわる苦労についても面白かった。

それから、施設や内容にもよるのだろうけれど、来館のきっかけの60%がインターネットからの情報だという。ほぼ外にいて、テレビをみないのだから、情報源はSNSによっていくわけで、これに対応していくことは必然か。そういう時代だからこそ、プロモーションの打ち方は重要だし、年々変わるトレンドに追随していくのは、人を育てて、自前でやっていくしかない。外だししても、シルバーバレットはないだろうし。

この本は、短時間でよめて楽しい本だった。あと、本の中で気になったところの一部を引用。

P.27 およそ60パーセントの来館者がスマートフォン・パソコン、つまりインターネットからの情報をきっかけに来館しています。チラシ・ポスターなど、紙をきっかけにして来館した来館者は、わずか20パーセント弱にとどまっています。
 さらに「インターネット」と答えた方の内訳を見ると、なんとウェブサイトを抑えてSNSをきっかけに来館した方が一番多いことがわかりました。
 いかにSNSが、展覧会に出向く動機になっているか。美術館側からしてみれば、展覧会の動員において欠かせないツールになっていることが、このデータからよくわかると思います。

P.52 SNSはインターネットを介した、相手の顔が見えないコミュニケーションですが、先ほど述べた通り、画面の向こうには一人ひとりのユーザーがいます。ある意味では最前線の接客業ともいえるのです。
 ですから、その企業の現場をよくわかっている人がSNSを運用したほうがよいと、私は考えています。お客さんの気持ちがわからないと、一方的な投稿をしてしまったり、最悪「炎上」したりと、思わぬトラブルになる可能性もあります。顧客対応のスキルはSNS上で活かせるのです。

P.135 美術館という文化施設の性質かもしれませんが、炎上することはほとんどありません。ただし、ブランドやレピュテーション(評判)を守るためにも、SNSに投稿するときに気をつけている話題があります。それが次の4つです。
1 政治や思想についての個人的な感想
2 スポーツ(特に試合結果など)についての意見
3 宗教について
4 性について

P.166 森美術館のSNSのゴールは、来館してもらうという目的ただひとつです。なので、美術館のレピュテーションを安易なSNS運用で下げるわけにはいきません。コツコツ信頼を積み上げて、将来的にユーザーに来館してもらう道を選びました。 また、「中の人」が自由に発言する企業アカウントには、問題がひとつあります。それは、その人のセンスに頼ってしまうということです。つまり属人化してしまう、ということです。 多かれ少なかれ、SNSの管理者の個性は出てしまうもの。しかし、担当者が変わったら成り立たないほどに属人化してしまうのは企業側にリスクがあります。

P.184 とりわけ地方のミュージアムは、少子化、高齢化の影響で来館者が年々減少し、人手も予算も不足しているところが多いようです。
 しかし、そうしたミュージアムこそSNSを活用してほしいと思っています。新たに人を雇う必要はありません。目立とうとする必要もありません。いまいるスタッフが、実直に、日々のことを背伸びしないでルーティーンワークで投稿していけばいいのです。

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